日本脳腫瘍学会 第1回脳腫瘍支持療法研究会

理事長・会長挨拶

理事長挨拶

永根理事長

日本脳腫瘍学会

理事長 永根 基雄

特定非営利活動法人 日本脳腫瘍学会(Japan Society for Neuro-Oncology;JSNO)は、日本国内における脳腫瘍(Neuro-oncology)関連の学会・研究会の中で、もっとも長い伝統と歴史をもつ学会です。

本学会は、1980 年に本学会の前身である第1回「日光脳腫瘍カンファレンス」が永井政勝会長により開催されたことを端緒に、2002 年に任意学術団体「日本脳腫瘍学会」が創立され、学会へと進化いたしました。2008 年に特定非営利活動法人として認証され、理事長は初代の松谷雅生先生から、渋井壮一郎先生、西川亮先生へと引き継がれ、脳腫瘍に関する基礎・臨床研究の推進、国内外の調査研究や関連団体との連絡、提携を図る事業を行い、脳腫瘍診療の進歩、普及に貢献し、社会福祉の増進に寄与することを目的として活動を発展させてまいりました。

脳腫瘍はさまざまながん腫の中ではいわゆる「希少がん」の一つに分類されますが、神経膠腫(特に膠芽腫)、悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍などは高齢者に多く、依然生命予後が不良な「難治がん」です。また、脳腫瘍は白血病と並び小児期に好発する腫瘍でもあります。中枢神経系が侵されることにより、麻痺や高次脳機能障害、また意識障害など社会生活のみならず自己のケアを維持することも困難となりやすく、あらゆる角度からの医療資源の投入、患者さんの支持・支援を必要とする疾患です。

日本脳腫瘍学会は、Multidisciplinary Neuro-Oncology の視野に立脚した活動を掲げており、脳腫瘍、特に悪性脳腫瘍に対して、多職種で協調・協力して病態解明、治療法開発を図るのみならず、患者・家族への診療の質の向上を推進することも目標としています。上記のように他臓器がんと比較し、脳腫瘍患者では脳障害によるADL の低下やQoL の低下を伴いやすく、また小児脳腫瘍も多いことから、患者ケアの重要性がより高いと考えられます。 一方、それに対応するインフラの整備や学問的探索は未だ不十分な状況にあります。本学会の目指す方向性の一つとして、昨年、成田善孝先生が中心となり、脳腫瘍支持療法委員会を学会内に設立いたしました。これまで、脳腫瘍の患者さんが直面する様々な病状に対するケアの仕方や社会福祉制度の存在、役割やアプローチの方法など、手に取りやすい資料が乏しい状況にありました。そこで、同委員会では、これら脳腫瘍患者さんのニーズに沿った各種病態や介護、ケアに関するパンフレットの作成を行い、既に10 種類を超える資料を日本脳腫瘍学会のホームページに公開していますので、是非ご活用頂けましたら幸いです(現在は学会会員限定公開)。

年に一度の日本脳腫瘍学会の学術集会では全国から研究者が集い、基礎・臨床研究の成果が多数発表され、熱い議論が交わされています。一方、治療中、治療後の患者ケアに関しては、十分な時間を費やしての検討を行うことが難しいことから、今回、脳腫瘍支持療法委員会により本研究会を企画、開催することと致しました。この記念すべき第1回の研究会は同委員会の成田委員長が会長を務められ、脳腫瘍患者のニーズとサポートをテーマに、各患者支援領域の専門家にお集まり頂きます。脳腫瘍患者ケアに関して多面的に議論して頂く機会となり、皆様にとって有意義な会となりますことを祈念しております。多数の皆様にご参加頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。

会長挨拶

会長 成田 善孝

日本脳腫瘍学会 第1回脳腫瘍支持療法研究会

会長 成田 善孝

(国立がん研究センター 脳脊髄腫瘍科)

日本脳腫瘍学会は、脳腫瘍に関する基礎・臨床研究の推進、普及に貢献し、社会福祉の増進に寄与することを目的として、2002 年に創設されました。脳腫瘍の学術集会は、1980 年に第1回「日光脳腫瘍カンファレンス」が開催され、2022 年には私が会長で第40 回日本脳腫瘍学会学術集会を開催しました。学術集会では、悪性脳腫瘍の遺伝子解析やバイオロジーなどの基礎研究や新規治療薬の開発について、参加者約500 人が合宿形式で朝から深夜まで議論を行いますが、脳腫瘍患者さん・家族を含めた介護者の心の問題や支持療法について議論する時間は十分とはいえません。

悪性脳腫瘍の患者さんは、身体的麻痺や失語・意識障害が進行する可能性があり、治療の早期から様々な支援が必要です。特に膠芽腫などは短期間に病態が悪化するため、患者さん・家族などへの精神的なサポートや支持療法の開発が重要と考え、2021 年12 月に日本脳腫瘍学会の中に脳腫瘍支持療法準備委員会が立ち上がりました。2022 年5月には、日本脳腫瘍学会の主な会員である脳神経外科医だけでなく、リハビリテーション科医・精神科医・心療内科医・看護師・研究者など多職種の医療関係者に加え、JBTA 脳腫瘍ネットワークの患者会にも参加してもらい、脳腫瘍支持療法委員会が発足しました。脳腫瘍支持療法委員会では、脳腫瘍に関わる多職種による診療・研究・教育を通じて、脳腫瘍の患者・介護者の悩み・診療上の問題点を明らかにします。さらに、脳腫瘍の患者さんの症状緩和・リハビリ・就労支援や、ACP(advance care planning)の検討を支援し、QOL(Quality of life)を向上させるための支持療法を科学的に確立することを目的としています。この1年間で、委員会が作成した患者さん・介護者向けのパンフレットは、支持療法が12 種類、ACP が3段階、そして就労支援も完成し、さらに自宅でのリハビリプログラムも検討中です。

病院では、患者さんが早く回復するよう、また一日も元気で過ごせるよう、医療スタッフがTEAM一丸となって診療に励んでいますが、それぞれの職種が異なる学会で発表することがほとんどで、医療者間での学問的な交流・指導は十分とは言えません。脳腫瘍に関する研究の裾野を広げるために、脳腫瘍支持療法研究会では、脳腫瘍に携わる様々な領域の専門家が集まり、様々な意見交換・議論により、日本の脳腫瘍に関する研究がさらに発展していくことを期待しています。

第1回研究会では、悪性脳腫瘍の患者さん・家族のニーズやサポートを明らかにするために、全国的な患者さん・家族への調査を実施中です。これまで250 人以上の方々に調査に協力していただきましたが、膨大なアンケートに協力していただいた患者さん・介護者の皆様に、心より感謝申し上げます。本研究会で中間発表を行いますが、アンケートはまだ継続中で、今後、調査結果を本研究会HPで公開します。この調査が、脳腫瘍の患者さん・介護者のかかえる問題点を解決するための礎になることを期待しています。

2023年7月